明治13(1880)年「区町村会法」

 明治13(1880)年の「区町村会法」が、水利土功会の設立を認めた。これにより、それまでの慣行的な水利組織は、地方行政の中に含められた事となり、初めて公の組織となった。
<注記:土功とは、土の切り取り・盛り土・運搬など土砂を扱う土木工事。>

明治21(1888)年「町村組合」

 明治21(1888)年の「町村制」に基づき、町村組合を設立して、用水等の管理ができるものとされた。

明治23(1890)年「水利組合条例」

 更に、明治23(1890)年に「水利組合条例」が制定された。この条例は、先に制定された「市制」「町村制」の特別法として制定され、ここに水利組合制度の確立をみる事となった。
「水利組合条例」では、水利に関して、利害の一致しない複数町村、又は町村組合による運営管理の困難な場合に水利組合の結成が認められ、その目的に応じて、普通水利組合水害予防組合の二つに分けられた。この事は、行政と水利組織の分離が意図され、且つ水利組織の地主的掌握の道を開いたと言う意味で画期的な事であった。
然し、実際は、組合の管理者が従来どおりの市町村長や郡長であり、組合費徴収についても市町村税の例によるとされ、町村行政からの完全な分離には至らなかった。
只、町村単位で組合の結成が認められた事により、全国に、大小様々な水利組合が重層的に存在する様になり、それらが関連して地域行政を支える状態に至ったのである。

明治41(1908)年「水利組合法」

 明治41(1908)年には、条例に代わる「水利組合法」が制定され、水利組合には法人格が与えられる事となったが、内容的には大きな変更はなかった。
 <注記:普通水利組合は灌漑・排水、水害予防組合は水害予防に関する事業を行う組織として、大きな変更はなかった。>

昭和24(1949)年「土地改良法」「水害予防組合法」

昭和24(1949)年に「土地改良法」が制定され、従来の普通水利組合や耕地整理組合に代わる「土地改良区」の設立が規定された。一方で、従来の水害予防組合は、「水害予防組合法」が制定され、これに引き継がれた。法制は、この2法が現在に至っている。(実際には、一定規模以上の普通水利組合や耕地整理組合は、土地改良法に基づく法人格を示す「土地改良区」に改称し組織変更された。)
 制定の要点としては、「土地改良区」は、土地改良事業を担う主体であると同時に、土地改良施設を維持管理し、土地改良の効果を実際に定着させていく組織主体となる事、又、戦前段階の耕地整理組合や普通水利組合が土地所有者を組合員とした実質的な地主団体であったのに対し、「土地改良区」の組合員は、耕作者とされ民主的な組織とした事の2点である。

「土地改良法」の成立経緯と意義

昭和24(1949)年5月に土地改良法は成立したが、当時は、戦後の食料増産もさることながら1950年代以降の食糧危機に対応する必要があった。具体的には、自作農制の基盤強化と食糧増産体制の確立である。この為、同法には次の特徴を持たせている。
(1)国営・都道府県営土地改良事業に法的根拠が付与された事。
(2)耕地整理組合、普通水利組合を廃止して「土地改良区」という組織に一本化した事。
 土地改良区は、土地改良事業の主体となる事業団体であると同時に、水利権の主体として水利施設を掌握する管理団体という側面も併せもつこととなった。これに至る経緯は、内務省が水利組合法を制定して農業水利団体行政を掌握する間に、農商務省が耕地整理法を定めて事業行政を掌握したが、終戦に伴う内務省解体と建設省新設、並びに河川行政の移管があった。これを契機に、土地改良と農業水利行政の統一が行われ農林省の一元支配に至ったのである。
(3)構成員を耕作農民とした事。
 この様な特徴を持たせた狙い、即ち法の意義としては次に整理できる。
(1)政府の補助金政策の根幹をなす事となり、稲作生産発展の中核的役割を果たした。
(2)耕境の拡大から既耕地の改良への政策転換を意味していた。
(3)食糧管理制度と結合して水田偏重政策ともいえる特徴をもたらした。

 

 以上の整理は、1985.9.17初版 新井鎮久(やすひさ)著「土地・水・地域」に玉城哲著「土地改良百年史」を引用して掲載されている。
 非農家であれば、農業施設と言っても中々イメージ出来ないが、ダム建設から始まり、末端の頭首工、用排水路に至る灌漑設備、耕作地の区画整理事業など、農家のみの負担ではとても整備出来ない灌漑基盤整備がこの法律を基に実現出来、又その他農政も加わり我が国の食糧危機の緩和という成果をみたのである。

平成31(2019)年4月1日施行「土地改良法の一部を改正する法律」

平成30年の通常国会で改正土地改良法が成立し、31.4.1施行となった。改正概要を下記に転記しておくが、大きくは、第1に、組合員資格を緩和したこと、第2に体制の改善を措置したことである。
 組合員資格の緩和は、賃借地の耕作者等で事業参加資格がないものに准組合員資格を付与したり、監事の資格要件を緩和し、背景となっている離農や農地集積による担い手の変化に対応している。
 体制の改善は、総代会制度を見直し、総代会設置要件を緩和、総代選挙も選挙管理委員会による管理を廃止し運営と事務の効率化を目指すが、反面的に決算書類の作成と一人以上を員外と改定した監事の定めは厳正化の方向となっている。
 決算書類の厳正化は、従来の事業報告書、収支決算書及び財産目録のほか、複式簿記を導入して貸借対照表を作成する。又、関係書類については監事の意見書を添付して総会に提出するとともに、総会の承認後、都道府県知事等への提出及び公表を行うものとする。
 さて、ここで注目したいのは、上記の貸借対照表の作成である。それを作成するということは、当然ながら、決算時点の資産を計上しなくてはならない。実施期限は、この法律の付則により平成34事業年度から適用とある。私の地元水利組合でもかかる準備が平成31年初より始まっている。

改正概要
第1.組合員の資格交替の円滑化等
1土地改良区に参加する資格を貸借地の所有者から耕作者又は養畜の業務を営む者へ交替 
する場合の農業委員会の承認を廃止し、申出によるものとする。(第3条2項改正)
2農地中間管理機構が組合員たる資格を取得し、又は喪失した場合において、当該資格の
得喪を土地改良区に通知したときは、農地中間管理機構以外の当事者についても資格得喪通知をしたものとみなすものとすること。(第43条3項新設)
3土地改良区は、定款で定めるところにより、貸借地の所有者又は耕作若しくは養畜の業務を営む者であって、事業参加資格を有しないものを、准組合員として土地改良区に加入させることができるものとすること。(第15条2項から4項新設)
4准組合員は、総会に出席して意見を述べることができるものとすること。第32条4項新設)
5土地改良区は、准組合員が、組合員の同意を得て賦課金等の一部を当該准組合員に賦課すべき旨を申し出たときは、当該准組合員に対して賦課徴収するものとすること。(第36条2項新設)
6土地改良区は、耕作又は養畜の業務を営む者の土地改良事業への参加の促進を図るため、土地改良施設の管理その他の土地改良事業に関する情報の提供に努めるものとすること。(第15条5項1新設)
7国及び地方公共団体等は、土地改良区に対し、必要な指導、助言その他の援助を行うほか、国等が行う土地改良事業により新設又は変更した土地改良施設に係る情報の提供を行うよう努めるものとすること。(第15条5項2、57条9項新設)
第二土地改良施設の管理への参加
1土地改良区は、定款で定めるところにより、地域住民を主たる構成員とする団体で土地改良施設の管理に関連する活動を行うものを、施設管理准組合員として土地改良区に加入させることができるものとすること。(第15条2項から4項新設)
2施設管理准組合員は、総会に出席して意見を述べることができるものとすること。(第32条4項新設)
3土地改良区は、施設管理准組合員に対し、土地改良施設の管理への協力を求めることができるものとすること。(第36条2項新設)
第三理事の資格要件の見直し
土地改良区の理事の定数の少なくとも五分の三は、原則として、組合員で、かつ、耕作又は養畜の業務を営む者でなければならないものとすること。
(改定前第18条5項=土地改良区の理事の定数の少なくとも五分の三、監事の定数の少なくとも二分の一は、組合員でなければならない。)
第四総代会制度の見直し
1総代会の設置要件を組合員の数が百人を超える土地改良区とするとともに、総代の定数を三十人以上で定款で定めることとすること。23-1、-2
(改定前第23条1項、2項=組合員の数が二百人を超える土地改良区は、定数の定めるところにより、総会に代わるべき総代会を設けることができる。総代の定数は、組合員の数が千人未満の土地改良区にあっては三十人以上、千人以上五千人未満の土地改良区にあっては四十人以上・・・略・・・でなければならない。)
2総代の選挙について、選挙管理委員会による管理を廃止し、土地改良区の役員の選挙に準じて土地改良区が行うものとすること。
(第23条4項で準用する第18条3項改定)
3総代は、書面又は代理人をもって議決権を行使することができるものとすること。23-5⇒31-2(第23条5項で準用する第31条2項改定)
4総代会において解散又は合併の決議があったときは、理事は、決議の内容を組合員に通知するとともに、組合員が総組合員の五分の一以上の同意を得て総会の招集を請求したときは、総会を招集しなければならないものとすること。(第24条改定)
第五財務会計制度の見直し
1土地改良区の監事のうち一人以上は、原則として、組合員等以外の者でなければならないものとすること。(第18条6項新設)
2土地改良区及び土地改良事業団体連合会は、決算関係書類として、事業報告書、収支決算書及び財産目録のほか、原則として貸借対照表を作成することとし、決算関係書類について、監事の意見書を添付して総会に提出するとともに、総会の承認後、都道府県知事等への提出及び公表を行うものとすること。(第29条の2項新設)
第六利水調整規程の策定
土地改良区は、農業用の用水施設の管理を行う場合には、農業用水の利用の調整に関する事項について、総会の議決を経て、利水調整規程を定めるものとすること。(第57条の三の二等関係新設)
第七土地改良区連合の業務の拡充
二以上の土地改良区は、土地改良事業のほか、土地改良区の事業の一部を行うため、土地改良区連合を設立することができるものとすること。(第77条改定)

 

第八施行期日等
1この法律は、平成31年4月1日から施行するものとすること。(附則第一条関係)
2この法律の施行の際現に存する土地改良区及び土地改良区連合については、理事及び監事の要件に係る第三及び第五の一の規定は、施行日から起算して4年を経過した日以後最初に招集される通常総会の終了の時までは、適用しないものとすること。(附則第三条関係)
3この法律の施行の際現に存する土地改良区及び土地改良区連合については、貸借対照表に係る第五の二の規定は、施行日から起算して3年を経過した日以後に開始する事業年度から適用するものとするこ
と。(附則第六条関係)
4その他所要の経過措置を整備するとともに、関係法律の一部を改正するものとすること。(附則第二条、第四条、第五条、第七条から第十一条まで関係)